役員になっている方が病院やケガなどで長期入院するケースがあると思います。
その時の役員報酬はどうしたら良いか迷う方もいるでしょう。
というのも、役員報酬が経費として認められるには毎月同額の報酬を支払う必要があるためです。
定期同額給与の詳細はこちら:定期同額給与について~国税局HP~
そこで本記事では役員が長期入院した場合の役員報酬の取扱いについて説明していますので、該当する方は参考にしてください。
役員が入院した場合に役員報酬は減額して、復帰したらもとに戻しても良いか
役員に支給する役員給与に関しては基本的にあらかじめ定められた支給基準に基づいて毎月同額を継続して支給している会社が多いと思います。
これは法人税法において役員報酬を経費(損金)にするためには毎月同額支給を継続していくことが条件となっているためです。
しかし、役員の方が事業年度の途中で病気やケガ等で長期入院したため、一部の業務が執行できなくなった期間だけ役員報酬を減額することもあるでしょう。さらに退院して通常業務に復帰したら復帰前(入院前)の金額に戻したいと思ったときに、この減額した役員報酬と復帰後の役員報酬は経費になる毎月同額支給を継続している給与(定期同額給与)に該当するか疑問に思われる方もいると思います。
基本的に定期同額給与に該当する
役員報酬は、経費として認めてもらうためには事業年度の途中に簡単に変更することができません。
ただし、法人税法では次のいれれかの要件に該当した場合には改定(役員報酬の変更)が認められています。
- 定時株主総会の決議などにより、事業年度開始の日から3月を経過する日までにされた通常改定。(ただし、継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にはその改定の時期となります)
- 役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更があるなどのやむを得ない事情による臨時改定事由による改定
- 経営の状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情による業績悪化改定事由による改定。(ただし、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこの要件に該当しません)
今回の入院の場合は①から③のいずれかの要件に該当するか見ていきましょう。
病気やケガによる長期的な入院は、予測できない偶発的な事象になります。
その結果、当初予定されていた職務の執行が一部できいこととなります。
これにより役員報酬の額を減額して支給した場合には、②の職務の内容の重大な変更その他これに類するやむを得ない事情があったものとして、臨時改定事由による改定に該当することで、定期同額給与に該当することとなります。
また、退院後に入院前と同様の職務の執行が可能となったため、取締役会等の決議を経て、当初の役員報酬に戻す場合も、同じ理由で定期同額給与に該当します。
定期同額給与と認められないケースもあるので注意
ただし、これは形式的に入院した、退院したということで判断するのではなく、役員の職務内容など個々の実態に即し、予め定められていた役員給与の額を改定せざるを得ないやむを得ない事情があるかどうかにより判断することになります。
つまり、その役員の入院の経緯や入院期間、入院前後の職務内容の実態や、支給額とのバランス、減額決定の経緯等から総合的に判断する必要があります。
入院という事実だけで必ず定期同額給与と認められるわけではないということには注意をしましょう!
入退院した場合の役員報酬の増減まとめ
大原則として利益調整等を目的とした改定でないことが必要になってきます。
そういう事情ではなく予期できないことであれば、入院による改定は定期同額給与として損金計上が認められることになるでしょう。
また、役員報酬の改定は【臨時株主総会】や【取締役会】などでしっかりと決議をしておく必要がありますので、決議をしたうえで、議事録の作成・保存をしておきましょう。
長期入院中に役員報酬は支払っても良いのか
今度は、入院中の場合に役員報酬を減額するのではなく従前どおり支給しても問題無いのかについて見ていきましょう。
国税不服審判所の裁決事例
長期入院中の取締役会長に支払った報酬の額が過大か否かを争点として国税当局と争った事案がありますのでご紹介いたします。(平成14年6月13日裁決)
内容
各事業年度において、取締役会長に対し役員報酬として、平成10年7月期については12,000,000円、平成11年7月期については12,000,000円及び平成12年7月期については9,000,000円(以下「本件各報酬額」という。)を支給していた。
取締役会長は平成9年4月以降は長期入院をしていたため、税務署は通常の勤務ができなかったし、非常勤役員になっていることから入院中の報酬が過大であるとした。
税務署の主張
平成9年4月以降は長期入院が継続して通常の勤務ができなかったと認められる
平成12年7月期の確定申告書に添付している「役員報酬手当等及び人件費の内訳書」の常勤・非常勤の別の表示欄において取締役会長は非常勤である旨の表示を行っている
役員報酬の適正額は、近隣の同種・同規模の事業を営む法人の非常勤取締役に支払われた役員報酬の状況を検討した結果、役員報酬の適正額は月額500,000円と認められる
会社の主張
創業社長及び創業会長であり、請求人の発行済株式総数の54%を自己及び配偶者の親族で保有する実質的な支配株主であることから、現代表取締役社長は会長の意思に反する経営を行うことはできなかった
現代表取締役社長は経営者としての経歴も長くなく、年齢も若かったため、取締役会長から会社経営全般に対して常にその指揮を受けていた
取締役会長は経営者として、営業、人事労務、資金調達のすべての分野において全般的に関与し、会社経営に関して自ら企画立案をし、又は企画立案を指示し、会社業務の細部まで報告させ、それをチェックするなど、入院前と変わることなく経営全般に従事していた
役員報酬の増額については、ここ10年間、極めて優良な業績を安定して上げているなどの請求人の業績に対し、役員報酬の額が相対的に低額になっていることから、取締役の業績に応じて見直したものである
毎日一定時間会社にいたわけではないが、取締役会長としての勤務状況は常勤と何ら変わることのない状況であり、比較するのであれば類似法人の常勤取締役の報酬額と比較すべきである
国税不服審判所の判断
・平成5年6月28日に病院に入院して以来、平成12年4月21日に死亡するまでの間、入退院を繰り返しているが、取締役会長に対する報酬が増額された平成9年8月1日以後は、入院時においても、毎日ではないものの会社に出向いており、その際、会社の職務に従事しているほか、会社の業務に関連して病院から外出しており、外出していない時も病室で会社の役員等から報告を受け指示をしていた事実が認められ、また、入院の状況が免疫療法及び物理療法であったことを考え合わせると、取締役会長は、かなりの頻度で請求人の職務に従事していたと認めるのが相当である。
・役員が非常勤役員となるか常勤役員となるかの判断をするに当たっては、当該役員の勤務状況の実態に基づいて判断すべきであり、確定申告書の添附書類の表示だけを基に当該役員が非常勤役員であるとするのは相当でない
・正規の手続により非常勤の取締役となった事実も認められない
このことから、取締役会長が非常勤であるという税務署の主張は認められないと判断しました。
これ以外にも会社の収益の状況についても、良好な経営成績であったことなどから、取締役会長に対する役員報酬は適正であるとした。
入院中の役員報酬の支給のまとめ
役員報酬は経営に従事していることに対する報酬になりますので、今回のケースのように書類上は非常勤となっていても、常勤と同様に経営に従事している実態があって、その金額が適正額であれば役員報酬として支給して経費(損金)にすることは可能と考えられるひとつの根拠になる裁決となるでしょう。
ただし、入院していて経営に従事できるような状況ではない場合は、減額する必要が出てくる可能性は高くなりますので、経営に従事できているかという実態に応じて役員報酬をどうしていくか決定していくことが大事になってきます。
コメント