【令和7年分保存版】税理士が徹底解説!「保険料控除申告書」の書き方と潜んでいる税務リスク

はじめに:この申告書が「単なる紙」で終わらない理由

年末調整の時期、経理担当者や経営者にとって、最も手間がかかる書類の一つが「給与所得者の保険料控除申告書」です。 記載項目が多く計算も複雑なため、毎年のように記入ミスが発生します。
さらに、この申告書は「還付金をもらうための紙」ではなく、「誰が保険料を負担しているか」を示す重要な税務証拠書類でもあります。

この記事を読むメリット

  • 生命保険料控除の「新・旧」区分と計算を迷わずできる。
  • 配偶者や子どもが関わる保険契約で、将来「誰に・どんな税金」がかかるかが分かる。
  • 「夫が払い、妻が被保険者、子が受取人」という要注意パターンのリスクを理解できる。

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目次

1. まず押さえるべき全体像

保険料控除申告書には、大きく分けて以下の控除がまとまっています。

  • 生命保険料控除(一般・介護医療・個人年金)
  • 地震保険料控除(旧長期損害保険料を含む経過措置)
  • 社会保険料控除
  • 小規模企業共済等掛金控除(iDeCoなど)

それぞれの欄に「誰の契約か」「どの区分か」「いくら払ったか」を正しく書くことが、年末調整の精度を左右します。


2. 生命保険料控除:「新・旧」区分を攻略する

2-1 新・旧区分の判定基準

生命保険料控除は、契約日によって「新契約」「旧契約」に分かれます。

  • 新契約(新制度)
    • 平成24年(2012年)1月1日以後に締結した契約。
    • 区分は「一般」「介護医療」「個人年金」の3種類。
  • 旧契約(旧制度)
    • 平成23年12月31日以前に締結した契約。
    • 区分は「一般」「個人年金」の2種類のみ。

控除証明書に「新制度」「旧制度」や、契約日が必ず記載されているので、自己判断せず証明書を見て区分しましょう。

2-2 記入金額と「正味支払額」

生命保険料控除欄に転記するのは、控除証明書の「本年中の支払保険料等の金額」の数字です。 配当金や割戻金が差し引かれている場合は「正味保険料」などの欄があるため、その金額を使います。

2-3 上限額と新旧混在時の考え方

所得税における生命保険料控除の限度額は、次のとおりです。

  • 各区分ごとの限度額(所得税)
    • 新契約のみ:各区分 4万円まで
    • 旧契約のみ:各区分 5万円まで
    • 新旧が混在する場合:計算式により新旧を合算するが、各区分の最終的な限度額は4万円
  • 制度全体の限度額(所得税)
    • 「一般」「介護医療」「個人年金」3区分の合計で 12万円まで。

新旧が混在する場合は、申告書の下部にある「新制度用の計算式」と「旧制度用の計算式」でそれぞれ控除額を計算し、その合計と旧制度のみの控除額を比較して有利な方を採用します(ただし各区分4万円が上限)。

2-4 生命保険料控除の上限まとめ表(所得税)

区分新旧区分1区分あたりの控除限度額制度全体の限度額(所得税)
一般・介護医療・個人年金新契約のみ各4万円3区分合計で12万円
一般・個人年金旧契約のみ各5万円3区分合計で12万円の範囲内
一般・介護医療・個人年金新旧が混在新旧計算のうち有利な方。3区分合計で12万円

※住民税は別枠で、各区分2.8万円、合計7万円が上限です。


3. 地震保険料控除:火災保険・旧長期との違い

3-1 対象となる保険料

地震保険料控除の対象は、次のものに限られます。

  • 居住用家屋や家財を対象とする地震保険の保険料
  • 地震特約付き火災保険の「地震部分」の保険料
  • 経過措置としての「旧長期損害保険料」

控除証明書に「地震保険料」または「旧長期損害保険料」と明記されたものだけが対象で、一般的な火災保険料(地震補償なし)は控除できません。

3-2 旧長期損害保険料とは

旧長期損害保険料とは、次の条件を満たす長期損害保険契約等に対する保険料で、経過措置として地震保険料控除の対象になっているものです。

  • 保険期間が10年以上
  • 保険期間の始期が平成18年12月31日以前

3-3 地震保険と旧長期が1証券にある場合

1つの契約に「地震保険料」と「旧長期損害保険料」が両方含まれることがあります。
この場合、控除できるのはどちらか一方だけであり、両方を書くことはできません。

  • 原則:控除額が大きくなる方(地震保険料か旧長期か)を選ぶ。
  • 限度額(所得税):
    • 地震保険料:5万円まで
    • 旧長期損害保険料:1.5万円まで

3-4 地震保険料控除の整理表(所得税)

区分主な対象控除限度額(所得税)
地震保険料地震保険、地震特約付き火災保険の地震部分5万円
旧長期損害保険料平成18年末以前開始・10年以上の長期損害保険料等(経過措置)1.5万円

4. 社会保険料控除・iDeCo:自分で払った分を漏らさない

4-1 社会保険料控除

給与天引きされている健康保険・厚生年金などは、会社が把握しているため原則本人の記入は不要です。 一方、自分で直接支払った社会保険料は、申告書に記載しないと控除されません。

主な対象の例

  • 国民年金保険料(未納分の追納、就職前に支払った分を含む)
  • 国民年金基金の掛金
  • 国民健康保険料(税)
  • 生計を一にする配偶者や子どもの国民年金保険料を本人が負担して支払った場合

控除証明書や領収書等に記載された金額を確認し、社会保険料控除欄に記入します。

4-2 iDeCo(個人型確定拠出年金)・小規模企業共済等掛金

iDeCoの掛金は、「小規模企業共済等掛金控除」として扱われます。

  • 申告書の右下(または専用欄)の「個人型確定拠出年金」欄に、年間の掛金額合計を記入。
  • 日本年金機構等から届く控除証明書(ハガキ)を添付する。

5. 「夫・妻・子」三角関係に潜む税務リスク

5-1 「払っている人」が誰かが重要

「妻や子ども名義の保険料を私が払っていますが、控除していいですか?」という相談は非常に多いです。結論はシンプルで、「実際にあなたが保険料を負担しているなら、保険料控除の対象とすることは可能」です。

しかし、ここで重要なのは、保険料控除申告書に「自分が払った」と書くこと自体が、「保険料負担者は私です」という税務上の証拠になり、将来の保険金受取時の課税関係(所得税・相続税・贈与税)に直結するという点です。

5-2 「契約者・被保険者・受取人」で税目が変わる

保険金の課税関係は、次の3者の組合せで決まります。

  • 契約者(=保険料負担者)
  • 被保険者(保険の対象となる人)
  • 受取人(保険金を受け取る人)

この組合せによって、「所得税」「相続税」「贈与税」のいずれがかかるかが変わります。


6. ケーススタディ:満期保険金の税金

6-1 満期保険金(養老保険・学資保険など)の整理

「満期が来たらお金が戻ってくる」タイプの保険では、代表的な組合せと課税関係は次のようになります。

保険料負担者(契約者)被保険者受取人かかる税金ポイント
所得税(一時所得)自分の資金を自分で受け取る。一時所得として50万円の特別控除あり。
贈与税夫の負担した保険料で妻が資産形成したとみなされる。
贈与税学資保険などで典型的。夫から子への贈与とされる。

学資保険などで「夫が保険料を払って子が満期金を受け取る」形は、教育資金準備として一般的ですが、税法上は贈与税の対象となり得る点に注意が必要です。


7. ケーススタディ:死亡保険金の税金

7-1 一般的な相続税扱いのパターン

典型的な「夫が亡くなったときに家族が保険金を受け取る」ケースは、以下のようになります。

保険料負担者(契約者)被保険者(亡くなる人)受取人かかる税金ポイント
妻・子相続税「500万円×法定相続人の数」の非課税枠を活用可能。

死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象ですが、一定額までは非課税になるため、相続税の観点では非常に有利な制度です。

7-2 要注意:「夫が払い、妻死亡、子が受取人」のケース

問題になるのが、次のようなパターンです。

  • 契約者(保険料負担者):夫
  • 被保険者:妻
  • 受取人:子

一見すると「妻が亡くなったのだから相続税」と思いがちですが、税法上は「夫(生存)→子への財産移転」と判断され、贈与税の対象になります。

この場合、相続税の非課税枠「500万円×法定相続人の数」が使えません。結果として、基礎控除110万円を超える部分に対して、相対的に税率の高い贈与税が課税され、税負担が重くなりやすいパターンです。


8. 保険料控除申告書との関係:書いた瞬間に「負担者」が固まる

年末調整で保険料控除申告書に「この保険料は私が払いました」と記載し控除を受けることは、税務署に対して「保険料負担者=自分」という証拠を自ら提出しているのと同じです。

  • 将来の満期金・死亡保険金の課税関係(所得税・相続税・贈与税)は、この「誰が払っていたか」に基づき判断されます。
  • 目先の数千円の節税のために控除を取った結果、将来の贈与税で数百万円単位の負担が生じることもあり得ます。

特に「夫・妻・子」が絡む契約では、「控除を取る前に、受取時の税目を一度整理する」ことが実務上とても重要です。


9. 実務でのチェック・見直しステップ

最後に、実務で押さえておきたいチェックポイントをまとめます。

  1. 保険契約の棚卸し
    • 各保険について、「契約者(保険料負担者)」「被保険者」「受取人」を一覧化する。
  2. 税目の整理
    • 満期時・死亡時に、所得税・相続税・贈与税のどれに該当しそうか、前述の表に当てはめて確認する。
  3. 贈与税パターンへの対応
    • 将来の税負担を試算し、必要に応じて
      • 契約者や受取人を見直す。
      • 保険料相当額をあらかじめ妻・子に贈与し、妻・子が自分の口座から保険料を払う形に変更する。
  4. 年末調整時の運用
    • 控除証明書の区分(新・旧・地震・旧長期)と金額を正確に転記する。
    • 「他人名義の保険を自分が払っている」ケースでは、出口の税金まで含めて一度立ち止まって検討する。

おわりに:迷ったら「その場しのぎ」で書かない

「給与所得者の保険料控除申告書」は、単なる年末のルーティンではなく、従業員の将来の資産形成と税負担を左右する書類です。

  • 新旧区分と上限額を押さえ、控除証明書どおりに正確に記入すること。
  • 地震保険・旧長期損害保険、社会保険料、iDeCoを漏れなく適切に申告すること。
  • そして何より、「夫・妻・子」が絡む保険については、「出口(保険金受取時)の税金」まで見据えて判断することが大切です。

判断に迷う場合は、その場しのぎで記入せず、必ず税理士等の専門家に相談するよう、社内でも周知しておくと安心です。

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