医療業を営む個人事業者の所有(または賃貸)する建物、自動車についてはどこまでが経費になるのか悩まれる方も多いかと思います。
経費にできるか否かは実態はもちろんのこと事業に必要であることが証明できなければ、
ケースバイケースですが必要経費として認められない可能性が高くなってきてしまいますので、
慎重に判断をするようにしましょう。
今回は、医療業を営む個人事業者の必要経費についての裁決を紹介いたします。
裁決の概要
医療業を営む個人事業者が必要経費に算入した自動車関連費用や診療所兼自宅(休憩所)の費用についての訴えに対して国税不服審判所で棄却されました。
〔裁決の要旨1〕建物について
鉄骨造3階建の建物において、
1階及び2階部分を診療所として、3階部分を自宅として使用していたが、
平成23年3月11日の震災後、マンションに移住した。
その後、マンションから通勤することは時間的に不可能であるとして、
3階部分に寝泊まりしていた。
移住先のマンションには月2・3回程度で3泊4日程度滞在していた。
診療所では診療時間以外の診療を行っていない。
建物の3階部分を寝食、昼の休み時間における休憩、
診療後における日々の金銭の確認・保管、カルテの検討及び専門分野の知識の習得など
事業専用として使用している主張
減価償却費については1階及び2階の床面積の割合である72.14%が
事業専用割合であるとして算出した金額で申告をしていたが、
それ以外の費用はこの割合を適用しないで必要経費に算入して申告していた。
審判所の結論
請求人が主張する本件建物の3階部分に係る各費用は、
必要経費としての要素と家事費としての要素を併有する家事関連費に該当することとなるとしたうえで、
マンションに滞在していた期間を除いて、
基本的にである。
そうすると、請求人の主張を前提とすれば、その使用状況が必ずしも明らかではないところ、
本件建物の1階及び2階部分に医療業務専用の場所があり、
加えて、請求人が3階部分で起居し診療時間以外の私的な時間を過ごしていたという事実に照らせば、
3階部分について請求人の医療業務の遂行上必要である部分があるとしても、
その主たる部分が請求人の医療業務の遂行に必要なものであって、
当該必要である部分が明らかに区分されているとは認められないことから
3階部分に係る各費用は必要経費に該当しないとした。
考察
裁決本文に記載はあるが、引っ越し先のマンションに帰宅していた期間が少ないことから
実質、単身赴任と同じ状況であったと考えられるとの判断は仕方ないかと思われます。
さらに減価償却費は従前どおり事業専用割合を使用しているにもかかわらず、
それ以外の費用はすべて事業用にしているということも、辻褄が合わないものと思われます。
仮に、減価償却費以外の費用を必要経費とするには、業務の遂行に必要である証拠が必要であると考えられます。
例えば、昼の休み時間に使用していた場合には、使用していた部屋を職員全員で利用していたことなどであれば、
その部屋に係る費用は必要経費で良いと思われます。
このように客観的な事実が無い場合は、必要経費とするのは厳しいとなるでしょう。
あとは、この医師の先生は24時間体制で救急にも対応していたという事実があれば、全額とは言えないですが
経費として認められる可能性は非常に高かったでしょう。
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〔裁決の要旨2〕車について
車両については、リース契約等で複数台所有していた。
車両は50%を必要経費としていた。
請求人(納税者)の主張
妻が給与支払事務や取引先への支払事務に係る書類の運搬は事業用になり、
その部分を別途ガソリン代、ETC代などを距離や平均燃費を算出し、
それをもとに計算した金額は必要経費になると主張。
その他医師会や学会への参加に使用しており、車輌の入れ替え、車検、故障等によって
車両ごとに事業用と事業用以外に使用しているため1.5台分の修繕費等は必要経費になると主張。
※恐らく1.5台分はと主張しているので3台所有していたと思われます。
税務署の主張
必要経費は事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、
かつ、その必要な部分の金額が明確に区分されていることが必要となる。
しかし、請求人において明確に区分されていないことからすれば、当該その他修繕費等は、
事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な部分の金額を明確に区分することができない
ものといわざるを得ないと主張
審判所の結論
各車両については、その使用状況が必ずしも明らかではないところ、診療所では往診を行っておらず、
請求人自身が土曜日及び日曜日を含む時期に妻子と会うことを目的として各車両により移動していた
という事実に照らせば、請求人が主張する本件各車両に係る各費用(ガソリン代、ETC料金、修繕費)は、
必要経費に該当しない。
したがって、請求人が主張する本件各車両に係る各費用は、本件各年分の事業所得の金額の計算上
必要経費に算入することができないとした。
考察
リース料については50%がすべて否認されたのかは不明でありますが、
車についても事実となる記録や明確な証拠がないことから修繕費等の費用を認められないとされたようです。
個人事業の場合は業務の遂行上直接必要であることが条件となっていることから、
複数台の車輌を有する場合は事業用の車と家事用の車とを明確に区分する必要があるでしょう。
ガソリン代や修理代の領収書等についても家事用のものは別途保管しておくことが望まれます。
車両については少し厳しめの判断となりましたが、個人事業の場合は特に注意をする必要があるとされる裁決となっていま
す。
本事例は、走行距離や平均燃費などで経費と家事費の按分を行っていれば良いでしょうという主張ですが
これが実態と合っていれば、本来は認められてもおかしくはないはずです。
ただし、より確実に必要経費として問題にならないようにするためには、繰り返しになりますが
複数台の車輌を有する場合は事業用の車と家事用の車とを明確に区分する必要があるでしょう。
ガソリン代や修理代の領収書等についても家事用のものは別途保管しておくことが望まれます。
今後、裁判所へ進むのかどうかは現在不明ですが、必要経費にするには業務と関係していると示す証拠が無いと厳しい判断と
なるでしょう。
裁決:【平30. 1. 9 仙裁(所)平29-3】
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