結論から言うと、決算賞与は「決算日までの通知」と「1ヶ月以内の支給」を守れば、決算直前でも合法的に使える節税策です。
「今期は予想以上に利益が出た。税金を払うくらいなら、頑張ってくれた社員に還元したい」
決算月が近づき、そう考えている経営者の方は多いのではないでしょうか。そんな時に最も有効な手段が「決算賞与」です。
本記事は「3分でわかる要点まとめ」と「詳細解説編」の二層構造になっています。忙しい方は要点まとめだけで決算賞与の全体像を把握でき、詳しく知りたい方は詳細解説編をお読みください。
📋 【3分でわかる決算賞与の要点まとめ】
決算賞与とは?
業績が良い期に、決算期末に社員に支給するボーナスです。支給は任意で、毎年の義務ではありません。
なぜ節税になる?
支給した分だけ利益が圧縮され、法人税が減ります。
例: 税引前利益1,000万円、実効税率30%の場合
- 何もしない → 税金300万円
- 決算賞与300万円支給 → 税金210万円
- 節税効果:90万円
ただし現金は300万円減少するため、資金繰りの確認が必須です。
失敗しないための3つの絶対条件
| 条件 | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| ① 通知 | 全員に個別金額を伝える | 決算日まで |
| ② 支給 | 全額支給する | 決算日翌日から1ヶ月以内 |
| ③ 計上 | 決算書に未払計上 | 当期の決算 |
重要: 1つでも欠けると節税効果が失われます。
よくある失敗
- 決算日後に通知した → 当期の経費にならず、1年遅れる
- 退職者に支給しなかった → 手続きが複雑になる
- 就業規則の「支給日在籍要件」に気づかなかった → 節税効果なし
判断前に必ず確認すること
- 資金繰りに余裕があるか
- 就業規則に「支給日在籍要件」がないか
- 決算日までに通知できるか
実行の流れ(概要)
- 利益予測と資金確認(決算日2週間前)
- 支給額を決定(決算日1週間前)
- 通知書を配布(決算日まで)
- 銀行振込で支給(決算日翌日から1ヶ月以内)
- 記録を保管(7年以上)
メリット・デメリット
メリット
- 実効税率30%なら、支給額の30%が節税効果
- 所得控除を受けられる可能性も
- 従業員のモチベーション向上
- 採用力強化
デメリット
- 現金が減少する
- 社会保険料(約15%)が追加費用
- 毎年の期待が生じる
⚠️ 実行前に必ず読んでください
決算賞与は有効な制度ですが、会社の状況により判断が異なります。以下に当てはまる場合は、詳細解説編をお読みいただき、顧問税理士にご相談ください:
- 資金繰りに不安がある
- 就業規則の確認が必要
- 実行の詳しい手順を知りたい
- 失敗事例から学びたい
本記事は一般的な情報です。あなたの会社に当てはまるかは、顧問税理士へご相談のうえ、判断してください。

【詳細解説編】
ここからは、決算賞与についてより詳しく知りたい方向けの解説です。
1. 決算賞与とは?
夏や冬の定期的なボーナスとは異なり、その期の業績に応じて決算期末に臨時で支給する賞与のことです。「特別賞与」「臨時賞与」とも呼ばれます。支給は任意であり、毎年支給する義務はありません。
1-1. 節税の仕組み
決算賞与を支給すると、その分だけ利益が圧縮され、法人税が減ります[4][46]。
簡単な例:
- 税引前利益:1,000万円
- 実効税率:30%
- 何もしない場合の税金:300万円
- 決算賞与300万円支給時の税金:210万円
- 節税効果:90万円
ただし、現金は300万円減少するため、資金繰りを慎重に検討する必要があります。
【本章のまとめ】
決算賞与は節税効果がある制度ですが、会社のキャッシュフローと照らし合わせて判断することが重要です。
2. 実務で失敗しない要点
決算賞与で最も大切なのは「きちんと通知・支給する」ことです。以下は実務で特に注意が必要な点です。
ポイント①:決算日までに「個人ごとの金額」を伝える
「基本給の1.5ヶ月分」といった計算式ではなく、「あなたは25万円」と個人ごとの金額を明確に伝える必要があります。東京地裁の判例(平成27年1月22日判決)でも、計算式を知っているだけでは不十分で、具体的金額の通知が必ず必要とされています。
❌ NG例: 「みんなで分配します」「基本給の1.5ヶ月分」
✅ OK例: 「あなたの決算賞与は25万円です」
方法:
- 紙の通知書を配る
- メールで個別に通知する(受信確認があると更に安全)
いずれの場合も、「いつ、誰に、いくら伝えたか」の記録を残してください。
ポイント②:決算日翌日から1ヶ月以内に支給する
3月決算なら、4月30日までに支給すれば当期の経費になります。5月1日以降は翌期の経費になり、節税効果が1年ズレます。
支給方法: 銀行振込を推奨します。記録が残り、「いくら支給したか」を証明しやすいためです。
ポイント③:退職者にも支給する
通知後に退職した従業員にも支給してください。「退職したから不支給」とするとトラブルになる可能性があります。
重要: 就業規則に「支給日に在籍する者のみ支給」という文言があれば、削除または決算賞与には適用しない旨を明記してください。
ポイント④:金額は変えない
通知後に「実は2万円減額する」といった変更は避けてください。確実に支給できる金額を最初から通知することをお勧めします。
【本章のまとめ】
決算賞与の実務は複雑に見えますが、実は「きちんと通知して、期限内に全額支給し、記録を残す」という基本に尽きます。
3. メリット・デメリット
メリット
①節税効果
実効税率30%なら、支給額の約30%が税金削減につながります。例えば500万円支給なら約150万円の税金削減が期待できます。
②賃上げ促進税制との組み合わせによる追加節税
決算賞与が前年度比で賃金を増加させた場合、賃上げ促進税制の対象になり得ます。この場合、通常の決算賞与の節税効果に加えて、さらに所得控除を受けられる可能性があります。
③従業員のモチベーション向上
利益還元は従業員のモチベーション向上につながります。「会社の成功を一緒に喜べる」という心理が重要です。
④採用競争力の強化
「利益を従業員に還元する企業」というイメージは採用活動で有利です[94][96]。特に若い世代の応募が増える傾向があります。
デメリット
①現金が減少する
節税効果以上に現金が減少します。資金繰りを慎重に検討してください。決算賞与300万円支給時、節税は90万円ですが、実支出は300万円です。
②社会保険料が追加発生
会社負担の社会保険料(約15%)が別途発生します。決算賞与300万円なら約45万円が追加費用です。
③毎年の期待が生じる
一度支給すると「来年ももらえる」という期待が生じます。就業規則に「業績により支給しない場合がある」と明記しておくと安全です。
よくある質問(FAQ)
Q. 電子メールで通知してもいい?
A. 可能ですが、受信確認を取り、送受信記録を保管してください。紙の通知書が最も無難です。
Q. 決算日が土日祝日の場合は?
A. その日までに通知を完了させてください。実務上は前営業日までの完了が安全です。
Q. 役員への決算賞与は?
A. 役員への賞与は事前に税務署へ届け出ていない限り、経費にはなりません。従業員のみが対象です。
Q. 支給日に在籍していない人は?
A. 通知後に退職した人にも支給する必要があります。支給しないと手続きが複雑になります。
Q. 毎年支給しないといけない?
A. いいえ。業績が悪い年は支給しなくても問題ありません。ただし「業績連動型である」ことを事前に説明することが重要です。
実務で成功・失敗した事例
成功事例:建設業、従業員30名
状況: 3月決算、当期利益が予想を上回った
実施内容:
- 1月中旬に利益予測を更新
- 3月15日に通知書を作成・配布(従業員署名取得)
- 3月末の決算仕訳で「未払金」として計上
- 4月15日に銀行振込で全員に支給
- 振込記録と通知書(署名入り)を保管
結果: 税務調査で指摘なし。節税効果90万円を実現
失敗事例:中小製造業、従業員15名
状況: 3月決算、決算後に利益が確定
失敗内容:
- 3月27日に「決算賞与を出す」と口頭で発表
- 4月10日に初めて個人別金額を伝える
- 4月25日に支給
- 就業規則に「支給日在籍要件」があったが、確認していなかった
問題点:
- 決算日(3月31日)までの通知ではなく、翌期の通知と扱われた
- 就業規則の要件により、手続きが複雑に
- 支給日も期限内(1ヶ月以内)ですが、通知タイミングで要件不満足
結果: 税務調査で指摘あり。手続きの修正が必要に
学び: 要件①(通知)が最も重要です。決算直前に実施するからこそ、事前準備が不可欠です。
実行の流れ(詳細版)
決算日2週間前から準備してください。
Step1. 利益予測と資金確認(決算日2週間前)
- 最終利益を予測する
- 支給後の手元資金を確認
- 社会保険料を含めた総額を計算
Step2. 支給額の決定(決算日1週間前)
- 支給対象者を決める(正社員全員など)
- 個人別の金額を決める
Step3. 通知書を作成・配布(決算日まで)
- 名前と金額を記載した通知書を作成
- 全員に配布
- 署名をもらう
Step4. 決算仕訳(決算日)
(借方)賞与 3,000,000円 (貸方)未払金 3,000,000円
Step5. 支給(決算日翌日から1ヶ月以内)
- 銀行振込で全員に支給
- 通知額と完全に一致した金額を支給
Step6. 記録保管(税務対策)
- 通知書(署名入り)
- 配布・回収リスト
- 銀行振込記録
- 就業規則、取締役会議事録
- 保管期間:7年以上
税理士が見るチェックリスト
実行前に、以下を確認してください。
- 資金繰りに問題がないか
- 就業規則に「支給日在籍要件」がないか(あれば要修正)
- 役員ではなく従業員のみの支給か
- 決算日までに通知できるか
- 決算日翌日から1ヶ月以内に支給できるか
- 記録を残す体制があるか
よくある誤解
Q. 適切にやれば絶対に大丈夫ですか?
A. いいえ。会社の就業規則や個別の事情により、判断が異なる場合があります。法人税法の解釈も判例により変わる可能性があります。
Q. この記事の通りやれば失敗しませんか?
A. この記事は一般的な情報です。あなたの会社の就業規則・資金繰り・業種により、適用が異なる場合があります。
Q. 会社の判断で進められませんか?
A. 基本的には顧問税理士と相談しながら進めることをお勧めします。特に以下については自社判断は避けてください:
- 就業規則の確認・修正が必要か
- 資金繰りに問題がないか
- 税務調査時の対応策
⚠️ 実行前に必ず確認してください
決算賞与は有効な節税策ですが、会社ごとに状況が異なります。本記事は一般的な情報をお伝えしたもので、あなたの会社に当てはまるかは別問題です。
必ず顧問税理士にご相談ください:
- 就業規則の確認と修正が必要か
- 資金繰りに問題がないか
- 実行手順が正しいか
- 税務調査時の対応策
- 賃上げ促進税制の対象になるか
本記事の内容に基づいて実行され、問題が生じた場合、当事務所は一切の責任を負いかねます。実行の際は、顧問税理士と一緒に進めることを強くお勧めします。
税制改正により取扱いが変更される可能性もあるため、専門家のサポートが不可欠です。
※本記事は2025年12月時点の一般的な情報です。個別の判断については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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