本記事は、社葬・お別れ会の税務処理を「実務担当者向け」に網羅的に解説しています。
結論だけ知りたい方は【5分で理解】をご覧ください。
この記事で分かること
✅ 社葬費用が損金算入できる3つの条件
✅ ホテルでのお別れ会が「交際費」になる境界線
✅ 一周忌法要の会社負担が認められない理由
✅ 税務調査で指摘される5つのポイント
✅ 事前準備すべき書類と実務テンプレート
対象読者:経営者・経理責任者・財務担当者
読了時間:約15分
【5分で理解】社葬費用の税務処理チェックリスト
✅ 損金算入できる費用(確実なもの)
- 葬儀会場費・祭壇費
- 新聞広告費・会葬礼状
- 僧侶へのお布施・読経料
- 会葬礼品(粗品)代
- 通夜振る舞い・精進落とし(厄落し程度)
- 交通費・ハイヤー代
❌ 損金算入できない費用(確実にNG)
- 香典返し(昭和50年裁決で明示)
- 墓地・墓石購入費
- 火葬料・戒名料
- 初七日・四十九日法要(法事費用)
- 一周忌法要
⚠️ グレーゾーン(要判断)
- ホテルでのお別れ会(社葬費用 vs 交際費)
- 別会場での大規模宴会(飲食費の範囲)
- 一周忌の会社負担(福利厚生費 vs 贈与)
📋 絶対やるべきこと
☑️ 社葬取扱規程の事前整備
☑️ 実施時の取締役会決議記録
☑️ 全ての領収書の完全保管
☑️ 事前の税理士相談
第1章:社葬費用が「損金算入できる条件」とは?
💡 この章のポイント
- 法人税基本通達9-7-19の正確な理解が必須
- 「社会通念上相当」という要件が最大のハードル
- 創業者・会長なら安心は禁物──例外もあり
- 税務調査で問われる「貢献度」の証明方法
社葬費用の税務処理は、法人税基本通達9-7-19によって定められています。
「法人が、その役員又は使用人が死亡したため社葬を行い、その費用を負担した場合において、その社葬を行うことが社会通念上相当と認められるときは、その負担した金額のうち社葬のために通常要すると認められる部分の金額は、その支出した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる」
「社会通念上相当」の3つの判断基準
税務調査で否認されないために、以下の3点が重要です。
| 判断基準 | 具体的な判断ポイント | 実務対応 |
|---|---|---|
| ①故人の貢献度 | 経営層の地位、経営年数、会社発展への寄与度 | 経歴書、取締役会議事録で証明 |
| ②死亡事由 | 業務上・業務外の別 | 死亡診断書で確認 |
| ③会社規模 | 売上高・従業員数との相関性 | 年商とのバランス確認 |
第2章:○✕一覧表で理解する「認められる費用」
2-1. 確実に損金算入できる費用(計11項目)
| 費用項目 | 損金 | 詳細・参考額 |
|---|---|---|
| 新聞訃報広告 | ✅ | 数万〜数十万円 |
| 葬儀会場使用料 | ✅ | 50〜200万円(規模による) |
| 祭壇・祭具費 | ✅ | 50〜100万円 |
| 僧侶のお布施・読経料 | ✅ | 30〜100万円 |
| 会葬礼状・案内状 | ✅ | 数万〜20万円 |
| 会葬礼品(粗品) | ✅ | 1,000〜3,000円/人 |
| 供花・供物代 | ✅ | 数万〜50万円 |
| 交通費(遺族・来賓) | ✅ | 数万〜100万円 |
| 警備員・交通整理 | ✅ | 数万〜50万円 |
| 飲食代(会場内) | ✅ | 3,000円程度/人(厄落し程度) |
| 社員夜食代 | ✅ | 実費 |
2-2. 絶対にNGな費用(計5項目)
| 費用項目 | 損金 | 損金不算入の理由 |
|---|---|---|
| 香典返し | ❌ | 昭和50年10月16日裁決で遺族負担と判示 |
| 戒名料 | ❌ | 宗教的費用→遺族の義務 |
| 火葬料・棺代 | ❌ | 密葬の一部→遺族負担 |
| 墓地・墓石費 | ❌ | 祭祀財産として別扱い |
| 初七日・四十九日法要 | ❌ | 法事費用に分類 |
2-3. グレーゾーン:判断が分かれる3つのケース
ケース①:別会場での大規模宴会
事例:昭和60年2月27日の国税不服審判所裁決
葬儀に引続き、別の料亭で行った「おとき」(断を裁く食事)の費用は社葬費用に当たらないと判示。
結論:葬儀会場内の飲食は認められるが、別会場での盛大な宴会は交際費として判定される可能性あり。
ケース②:一周忌法要の1万円基準
令和6年4月1日以降、1人あたり1万円以下の接待飲食費は全額損金算入可能ですが、法事という儀礼的行事には適用困難とされています。
ケース③:ホテルでのお別れ会
社葬費用か交際費かの判断は、以下で左右されます。
- 儀礼性の有無(祭壇、お別れの儀式)
- 親睦目的の強さ(取引先との交流)
第3章:ホテルでのお別れ会が「交際費」になる分岐点
💡 この章のポイント
- 「会食が中心」なら交際費認定のリスク
- 儀礼性が重要な判定基準
- 交際費認定された場合は年800万円限度額適用
相談事例1:創業者の社葬で1,500万円を支出したB社
企業概要:創業50年の製造業、従業員120名、年商30億円
相談内容:
創業者が逝去し、ホテルで社葬を実施。費用1,500万円を全額会社負担としたが、税務調査で一部否認されるのでは…
内訳:
- 祭壇・演出費:300万円
- 会場使用料・飲食:500万円
- ハイヤー・警備:100万円
- その他(広告・礼品等):700万円
税理士の判断:
| 項目 | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 創業者の貢献度 | ✅ 明確 | 創業以来の経営層 |
| 会社規模との妥当性 | ✅ 妥当 | 年商30億円なら1,500万円は相当 |
| 問題点 | ❌ リスク | ホテル宴会費500万円が交際費認定される可能性 |
対応策:
→ 社葬取扱規程を遡及的に整備
→ 取締役会議事録を作成(創業者への敬意、会社規模とのバランス記載)
→ 宴会費用は別途「交際費」として処理し直し(100万円は限度額内で損金算入、400万円は損金不算入)
→ 結果的に税務調査で指摘なし
交際費に該当した場合の計算方法
資本金1億円以下の法人の場合:
年間損金算入限度額 = 800万円 または 接待飲食費の50%のいずれか多い額
計算例:社葬の飲食費が200万円の場合
- 50%基準:200万円 × 50% = 100万円
- 800万円基準:800万円
- 適用:800万円基準が適用(多い方)
- 結果:200万円全額が損金算入可能
ただし、全社の交際費がすでに月800万円を超えている場合は、別途注意が必要です。
第4章:一周忌法要は会社負担できない?
💡 この章のポイント
- 法事費用は損金算入されない可能性が高い
- 1万円基準の適用は困難
- グレーゾーン部分が多く、事前の税理士相談が必須
- 「可能性」の段階で判断を留保する
4-1. 法事費用が損金算入できない税法上の理由
相続税法においても、一周忌は「葬式費用」に含まれません。理由は以下の通りです。
葬式:死亡に伴う本来的な行事
法事:故人を供養する遺族の宗教行事
つまり、法事は本来的には遺族が負担すべき費用です。会社が負担する正当な理由が必要になります。
4-2. 一周忌費用の処理方法(推定)
| 費用項目 | 推定処理 | 判定の確実性 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| お布施・読経料 | 福利厚生費(可能性) | ⭐⭐☆☆☆ | 遺族の宗教的義務であり、損金算入は確実ではない |
| 親族向けお斎 | 贈与(可能性) | ⭐☆☆☆☆ | 所得税課税対象となる可能性 |
| 親族向け返礼品 | 贈与(可能性) | ⭐☆☆☆☆ | 遺族への贈与判定のリスク |
| 取引先向けお斎 | 交際費(可能性) | ⭐⭐⭐☆☆ | 交際費限度額(年800万円)が適用される可能性 |
4-3. 1万円基準が適用できない理由
令和6年4月1日以降、1人あたり1万円以下の接待飲食費は交際費から除外されました。しかし、法事の飲食には以下の特殊性があります。
法事の飲食 ≠ 通常の接待飲食
- 宗教的・儀礼的性質がある
- 故人を供養する儀式の一環
- 参列者が被雇用者ではなく親族・遺族・関係者
このため、1万円基準をそのまま適用することは難しい可能性が高いとされています。
4-4. 実務判断:グレーゾーンへの対応
創業者の七回忌法要費用150万円を会社が負担した場合
遺族への贈与となる可能性のある部分:お布施、親族向けお斎・返礼品
交際費となる可能性のある部分:取引先向けお斎・返礼品
「可能性」と表現するのは、税務調査での判断が確定していないからです。
重要な指針:
一周忌法要の会社負担は多くの部分がグレーゾーンです。事前に必ず税理士に相談し、会社の具体的な事情に基づいた判断を得ることが極めて重要です。企業独自の判断で処理することは、後の税務調査での否認につながるリスクが高まります。
第5章:香典の会計処理と遺族への引き渡し
💡 この章のポイント
- 香典は原則として遺族の収入──法人は記帳不要
- 香典を社葬費用と相殺する場合の処理方法
- 従業員・取引先への香典支出の勘定科目
5-1. 香典は遺族の収入──法人は記帳不要
法人税基本通達9-7-19の注記により、以下が明記されています。
「会葬者が持参した香典等を法人の収入としないで遺族の収入としたときは、これを認める」
つまり、香典は原則として遺族の収入となり、法人は記帳する必要がありません。
5-2. 香典を社葬費用と相殺する場合
実務では、以下のような処理が行われます。
例:社葬費用500万円、香典収入400万円の場合
処理方法:
- 香典400万円を法人の「雑収入」として計上
- 社葬費用500万円を「福利厚生費」として計上
- 差額100万円が会社の純負担
この場合、法人の決算上は:
- 雑収入:+400万円
- 福利厚生費:-500万円
- 純費用:-100万円
5-3. 従業員・取引先への香典支出の勘定科目
| 支出対象 | 勘定科目 | 処理方法 |
|---|---|---|
| 従業員・その遺族 | 福利厚生費 | 規程に基づいて損金算入 |
| 取引先・仕入先 | 接待交際費 | 交際費限度額(年800万円)内で損金算入 |
第6章:よくある質問(FAQ)と実務対応
Q1:社葬費用の相場はいくら?
A:企業規模により大きく異なります。
| 企業規模 | 一般的な相場 | 参列規模 |
|---|---|---|
| 中小企業 | 200〜500万円 | 100〜300人 |
| 中堅企業 | 500〜1,000万円 | 300〜500人 |
| 上場企業 | 1,000〜3,000万円 | 500人以上 |
重要:「社会通念上相当」の判断は、金額だけでなく、故人の貢献度・会社規模・売上高とのバランスで総合判断されます。
全国平均的な葬儀費用は約195万円ですが、社葬は企業の経費で行われるため、一般葬よりも高額になる傾向です。
Q2:税務調査で否認されたらいくら追徴になる?
A:否認された金額に基づいて計算されます。
計算例:社葬費用500万円のうち200万円が否認された場合
法人税率を仮に30%とすると:
追徴税額 = 200万円 × 30% = 60万円
- 延滞税(年率2.4%〜9.1%)
- 加算税(35%または40%)
総額:約100万円以上の追加納税の可能性
国税庁サイト 延滞税について
Q3:香典は誰が管理すべき?
A:原則として遺族が管理します。ただし、会社が受け取る場合は明確な記録が必須です。
管理方法:
- 会社が受け取らない場合(推奨)
- 会葬者が遺族に直接香典を渡す
- 法人は記帳不要
- 会社が一時受取する場合
- 香典簿に記帳(金額、受取人、日時)
- 速やかに遺族に引き渡す
- 引き渡し証明書を保管
Q4:密葬と本葬の費用負担はどう分ける?
A:一般的な分担方法は以下の通りです。
| 費用項目 | 密葬 | 本葬(社葬) |
|---|---|---|
| 火葬・埋葬 | ⭐ 遺族 | |
| 祭壇・会場 | ⭐ 会社 | |
| 飲食 | ⭐ 会社 | |
| 新聞広告 | ⭐ 会社 | |
| 戒名料 | ⭐ 遺族 | |
| 墓地・墓石 | ⭐ 遺族 |
合同葬の場合:会社と遺族で按分することもあります。
按分方法:
- 項目別に分ける方法
- 参列者数に応じて按分する方法
Q5:一周忌を会社負担にする「抜け道」はある?
A:ありません。以下が実務的な対応策です。
正直な対応:
- 法的根拠がない部分は損金不算入として処理
- お布施の一部を役員賞与として処理
- 親族向けお斎を給与扱いにする
- 福利厚生費として損金算入する場合
- 社内規程(福利厚生規程)に一周忌法要補助を明記
- 故人の地位や貢献度を書面で説明
- 金額の相当性を証明
- 税理士と事前に相談
- グレーゾーンは事前協議で回避
- 税務調査対応の準備を整える
第7章:税務調査で否認されないための事前準備
💡 この章のポイント
- 「実施前の準備」が税務調査での防御の9割
- 社葬取扱規程は必須書類
- 取締役会決議の文言が重要
- 領収書管理はお布施の記録方法が鍵
7-1. 社葬取扱規程のひな形と記載必須項目
社葬取扱規程に記載すべき項目:
【社葬取扱規程のひな形】
第1条(目的)
当社の業に功労のあった役員・社員が死亡したとき、
本規定に基づき社葬を実施する。
第2条(対象者)
社葬の対象者:会長、社長、取締役(10年以上在任者)
その他特に貢献度が高いと認められる者
第3条(費用負担)
社葬費用は全額会社負担とし、年間予算の範囲内で実施する。
ただし、密葬費用は遺族負担とする。
第4条(費用の上限)
社葬費用の上限:1,000万円以内
(会社規模・故人の貢献度により調整)
第5条(香典の取扱い)
会葬者からの香典は遺族の収入とし、
法人の収入としない。
第6条(法事への負担)
初七日以降の法要費用は遺族負担を原則とする。
ただし、お布施の一部は福利厚生費として
会社が負担する場合がある。
7-2. 取締役会決議で記録すべき5つの事項
社葬の実施が決定した際、取締役会議事録に以下を記載することが重要です。
| 記載項目 | 具体的な内容 | 税務調査での効果 |
|---|---|---|
| ①故人の経歴・地位 | 「昭和△年入社、平成◇年に会長就任、△△年間経営を統率」 | 貢献度の証明 |
| ②会社への貢献度 | 「売上高を××から△△に拡大、従業員数を増加させた」 | 「社会通念上相当」の根拠 |
| ③死亡事由 | 「自然死」「病気による」など | 業務上・外の判断材料 |
| ④会社規模とのバランス | 「年商◇◇円、従業員△△名規模の企業として相当」 | 金額妥当性の説明 |
| ⑤社葬実施の理由 | 「企業のイメージ維持」「取引先への感謝」など | 社葬の必要性を説明 |
記載例:
昭和35年創業の当社において、故●●会長は、昭和45年の就任以来50年間にわたり会社を経営し、売上高を5億円から年商30億円に拡大した。その多大なる貢献に鑑み、本年度末、社葬を実施することを決定する。参列規模は取引先・関係者含め500名を予定し、予算規模は1,500万円とする。
7-3. 領収書管理とお布施の記録方法
領収書が発行される費用:通常通り保管
- 新聞広告費(新聞社の領収書)
- 会場使用料(ホテル・式場の領収書)
- 祭壇費(葬儀社の領収書)
- 飲食代(会場・仕出し屋の領収書)
領収書が発行されない費用:特別な記録が必須
お布施の記録方法:
- 不祝儀袋の写しを保管
- 金額、寺院名、僧侶名を明確に
- 僧侶からの証明書を取得
- 「社葬における読経料」という内容で簡単な証明書を依頼
- 社内記録簿を作成
- 「○年○月○日、社葬における読経料として△△万円を支出」
- 複式簿記として仕訳帳に記載
7-4. 税務調査で指摘されやすい5つのポイント
税務調査では、以下の点が重点的に質問されます。
| 質問項目 | 対応すべき証拠 | 否認のリスク |
|---|---|---|
| 施主が本当に法人か | 取締役会議事録、契約書 | ⭐⭐⭐☆☆ |
| 故人の社内地位と貢献度 | 経歴書、人事記録 | ⭐⭐⭐⭐⭐ |
| 「社会通念上相当」の根拠 | 年商、従業員数とのバランス説明 | ⭐⭐⭐⭐☆ |
| 金額が「通常」の範囲か | 同業他社事例、相見積もり | ⭐⭐⭐☆☆ |
| 各費用項目の区分 | 領収書の詳細、請求書の内訳 | ⭐⭐☆☆☆ |
最後に:社葬の準備は事前相談が9割
社葬費用の税務処理で最も重要なのは、実施前の準備です。
【今すぐやるべき3つのこと】
☑️ 社葬取扱規程の整備(ひな形を参考に作成)
☑️ 予算と税務リスクの事前シミュレーション
☑️ 取締役会決議の文言チェック(税理士に相談)
グレーゾーンへの対応
一周忌法要やホテルでのお別れ会など、グレーゾーンの費用については、事前に必ず税理士に相談してください。
税務調査で否認されてからでは、追加納税だけでなく、延滞税・加算税の負担も増加します。事前の相談に比べて、追加納税額は数倍に膨らむことも珍しくありません。
関連情報
- 税理士等の専門家への事前相談をお勧めします
- 社葬取扱規程のひな形については、公開資料を参考にしてください
- 法人税基本通達9-7-19の全文は国税庁HPで確認できます
免責事項
本記事は一般的な税務・会計情報を提供することを目的としており、個別の税務判断を示すものではありません。社葬費用の処理にあたっては、必ず税理士などの専門家にご相談ください。

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